遊び心こそ老舗の矜持、「銀座のつばめ」舞う瓦煎餅
ほんのりコクのある甘みと、パリッと心地よい軽快な食感が味わえる、瓦煎餅「大江戸松崎 三味胴(しゃみどう)」。創業220年以上の歴史を持つ「銀座 松﨑煎餅」さんの看板商品です。その三味胴に、温かな作風が特徴の小田中耕一さんの「銀座のつばめ」が砂糖蜜で鮮やかに描き出されました。
「松屋銀座さんが「銀座のつばめ」をどれだけ大切にされているかということを、改めて知ることができました」と話すのは、八代目当主・松﨑宗平(まつざきそうへい)さん。丁寧なものづくりを続けること。それでいて、遊び心を忘れないこと。松﨑煎餅さんが代々受け継いできた「砂糖蜜の絵付け」によって、「銀座のつばめ」がモダンに映し出されます。
変えるべきところは変える、まずは内側から

松﨑宗平さんが家業に携わるようになったのは、今から約20年前のこと。昔から音楽が好きだという松﨑さんは、バンドのベーシストという一面も持っています。大学卒業後は、グラフィックやWEBデザインを手がけるITベンチャー企業に就職。営業からデザイナー、アートディレクターまで幅広いポジションを経験し、会社が成長していく過渡期を最前線で駆け抜けました。
両親から「家業を継ぎなさい」と言われたことは一度もなかったと言います。「いずれしっかり向き合わなければいけない場所だとは、ずっと思っていました。高校生の頃から東京駅の店舗でアルバイトをしていたので、煎餅づくりの基礎や仕事の流れは一通り理解していました」
2017年、松﨑煎餅を運営する松崎商店に入社後、まず着手したのは店舗やバックオフィスの抜本的な整備でした。メールアカウントの作成やドメインの移行、サーバー設定、ECサイトにいたるまで、社内のデジタルインフラを一から構築。さらに、当時は紙の原本しか存在しなかった伝統のブランドロゴをマスターデータ化するなど、前職のスキルを遺憾なく発揮します。そして2018年、代表取締役社長に就任し、新たな歴史の一歩を踏み出しました。
老舗という言葉に甘えず、やるべきことをやる

「日本は創業100年、200年を超える老舗が世界的に見ても圧倒的に多い国です。私たちはその歴史に助けられていますが、だからこそ『老舗』という言葉に甘えてはいけない、胡座をかいてはいけないと強く思っているんです」と松﨑さんは語ります。松﨑煎餅の歩みは1804年、芝魚藍坂(現在の三田・白金高輪周辺)での創業に始まります。その後1865年、三代目の宗八氏が銀座へ拠点を移しました。明治の大火、関東大震災、昭和の戦災と、実に3度の火災に見舞われたものの、その伝統の火は絶えることなく今日まで引き継がれてきました。

その歴史の核にあるのが、三味線の胴の形を模した銘菓「大江戸松崎 三味胴(しゃみどう)」です。江戸川区にある小松川工場では、職人たちが「焼き上げ」「絵付け」「梱包」と息の合ったチームワークで、一枚ずつ丁寧に手作業で仕上げています。
つばめがつなぐ物語と、交差するものづくり
松﨑さんにとって銀座は、10歳頃まで暮らした、幼少期の記憶が色濃く残る特別な街です。自宅から歩いてすぐの場所にあった「天賞堂」の鉄道模型売り場や、松屋銀座のおもちゃ売り場に行くのが楽しみだったと当時を振り返ります。「松屋銀座の東館につばめの巣があるのは知っていましたが、30年以上も前から続いていることは知りませんでした。銀座の風物詩であり、松屋銀座がどれだけ地域に根ざしているかを感じる、素敵なエピソードですね 」。

今回、松﨑煎餅さんが手がけたのは「三味胴」のオリジナルバージョン。温かな作風が特徴の小田中耕一さんが描いた「銀座のつばめ」を主役に、銀座のシンボルである「柳」と「雲」が情緒豊かにあしらわれました。絵付けは、プラスチックの型を用い、職人がカラフルな砂糖蜜を一色一色手作業で塗り重ねていく繊細な作業です。「小田中さんが手がける『型染め』は、糊を置いた部分には色が染まらない。私たちの『砂糖蜜の絵付け』は、型をくり抜いた部分にだけ色が乗る。おもしろいことに、技法としては逆の関係にあるんです。しかし、デザインを型に起こし、一色ずつ丁寧に色を重ねて絵柄を作り上げていく工程には、とても深い親和性を感じました」。

のびのびとしたつばめ柄の曲線や絶妙なバランスを、瓦煎餅という小さなキャンバスのなかで再現する。そのため、型のつながりやミリ単位の輪郭にいたるまで、職人の手によって緻密な型おこしと調整が重ねられました。砂糖蜜で丁寧に描き出されたつばめは、箱を開ける前から手にした人を笑顔にしてくれます。大切な方への手土産として渡したとき、その絵柄が会話のきっかけになる。それもまた、きっと松﨑煎餅さんが大切にしてきた「遊び心」のひとつです。
美味しいことが何より全て、食べる側の人間の味覚はどんどん変わってゆく

「菓子作りにおいて何よりも大切にしているのは、『美味しい』こと。その上で、お客様が驚くような革新的な美味しさを表現した商品を作っていきたい」と松﨑さんは語ります。「よく代々のレシピを守り続けているのかと聞かれますが、味覚は時代とともに常に変化しています。例えば、江戸時代のレシピをそのまま忠実に再現したとしても、現代の人々に美味しいと受け入れられるかといえば、そうではない可能性も大いにある。だからこそ、アイデンティティとなる核の部分はしっかりと残しながらも、時代に合わせてアップデートしていく柔軟さが必要不可欠なのです」。その「時代に合わせて変化を恐れない姿勢」こそが、松﨑煎餅さんの歩んできた歴史そのものでした。

象徴的なのが、カラフルな砂糖蜜で季節の彩りを添える「三味胴」の絵付けです。この革新的な表現を始めたのは、実は五代目の曾祖父・房吉さんでした。「茶色い瓦煎餅に季節感と可愛らしさを取り入れよう」という自由な発想から生まれた手法です。「新しいことに常にアンテナを張り、インプットしたものを自分たちらしくアウトプットしていく。この『遊び心』こそが松﨑家のDNAなのだと思います」


東銀座・木挽町から広がる、「人が寄り合う場所」

「MATSUZAKI SHOTEN(松崎商店)」という屋号には、煎餅を媒介にしながら自分たちらしい表現を追求していきたいという決意が込められています。東銀座・木挽町通り三丁目に構える松﨑煎餅さんの本店。商品販売に加え、キッチンとバーカウンターを備えたイベントスペースや、人々がゆるやかに交わるサロンとしての顔も持っています。

「明治時代の本には、『銀座にある松﨑煎餅という煎餅屋の上階には近所のお年寄りたちが集い、老人会のようなことをしている……』という、かつての店の様子が記されていました。それを読んだとき、なんだか嬉しくなりましたね。100年以上前の先代たちと、今自分が東銀座で実現させたい店の思想は、全く変わっていなかった」。そこで松﨑さんが名付けたのが「寄り合い所」。銀座に縁のある人も、そうでない人も、幅広い世代が純粋に集い刺激しあえる場所を目指しています。
伝統の味と、型染めのモダンな美意識が美しく結実した松﨑煎餅さんの「銀座のつばめ」瓦煎餅「大江戸松崎 三味胴(しゃみどう)」。そのパリッとした軽快な響きを、松屋銀座の店頭でぜひ愉しんでみてください。




